【THA術後リハビリ】トレンデレンブルグ徴候が消えない原因と効果的な評価・アプローチ法

はじめに

人工股関節全置換術(THA)によって股関節の痛みが劇的に改善したものの、歩行時に骨盤が下がってしまう「トレンデレンブルグ徴候(トレンデレンブルグ歩行)」が残存してしまうケースは少なくありません。

「術後の経過とともに自然と治るのか?」 「なぜ中殿筋をトレーニングしているのに改善しないのか?」

本記事では、股OAに対するTHA術後においてトレンデレンブルグ徴候が発生・残存する根本原因から、臨床で役立つ評価のポイント、段階的なアプローチ法までを詳しく解説します。

トレンデレンブルグ徴候とは?

現象の定義:片脚立位時に、立位脚(患側)の中殿筋などの外転筋群の機能不全により、遊脚側(健側)の骨盤が降下する現象。

歩行への影響:立位時の骨盤降下を補償するために、体幹を患側に傾ける「ドゥシャンヌ徴候(Duchenne sign)」を伴うことも多く、歩行効率の低下や他部位(腰痛や膝痛)への不調を引き起こす。

THA術後にトレンデレンブルグ徴候が残る主な原因

「中殿筋の筋力低下」だけが原因ではありません。多角的な要因を分析することが重要です。

① 中殿筋・小殿筋の筋力低下と筋萎縮

  • 長年の病歴による影響:術前の変形性股関節症(股OA)期から続いていた不活動や痛みに伴う「廃用性萎縮」
  • 手術侵襲による影響:展開アプローチ(特に側方アプローチなど)による外転筋群への直接的な侵襲や縫合後の回復過程

② アライメントの変化とモーメントアームの低下

  • オフセット(Offset)の減少:手術による股関節オフセット(大腿骨頭から大腿骨の長軸までの距離)の減少は、中殿筋の張力を低下させ、筋力発揮効率を著しく落とします
  • Leg Length Discrepancy(脚長差):短縮や延長による外転筋群の至適長(筋長)の崩れ

③ 固有感覚(プロプリオセプション)の低下と運動学習の遅れ

  • 術前の長年の「代償歩行パターン」が脳の運動プログラムとして固着しており、術後に構造上の問題が解決しても正しい動作パターンを再獲得できていない。

④ 股関節の可動域制限(特に内転・伸展制限)や他部位の影響

  • 股関節の内転可動域制限や、反対側・腰部での代償動作による骨盤帯の不安定性

臨床で見るべき「評価」のポイント

単に「トレンデレンブルグが出ているか」を見るだけでなく、原因を特定するための評価を行います。

  1. 片脚立位評価(Trendelenburg test)
    • 骨盤の傾斜角度だけでなく、体幹の代償(ドゥシャンヌ)の有無、保持可能時間を計測筋力・筋出力の評価(MMT・機器測定)
    • 中殿筋(前部・後部線維)、小殿筋、大腿筋膜張筋の出力バランスの確認
  2. 股関節アライメント・レントゲン所見の確認
    • 術後X線におけるオフセット(Offset)や脚長差の確認
  3. 関節可動域(ROM)評価
    • 股関節外転・内転、伸展、屈曲の可動域とエンドフィール(組織の硬さ)
  4. 歩行分析(Gait Analysis)
    • 初期接地(IC)から立位中期(Mid Stance)における骨盤帯・体幹のアライメントと動的制御の評価。

段階別アプローチ&リハビリテーション法

ステップ1:準備期(可動域・アライメントの整え)

  • 軟部組織のリリース:大腿筋膜張筋、内転筋群、腰方形筋など過緊張を起こしている部位の柔軟性獲得
  • 関節可動域の確保:股関節内転および伸展可動域の改善

ステップ2:筋出力の改善(単関節・非荷重位トレーニング)

  • OKC(開放運動連鎖)での外転運動:
    • 側臥位での外転(骨盤の代償を防ぐため、股関節軽度伸展位・外旋位を意識)
    • 中殿筋後部線維の意識付け

ステップ3:荷重位・CKCへの移行(機能的トレーニング)

  • CKC(閉鎖運動連鎖)での中殿筋・骨盤安定化:
    • Pelvic Drop(ペルビック・ドロップ):ステップ台に乗せた脚で立ち、反対側の骨盤を上げ下げするコントロール運動
    • 立位での片脚保持&体幹安定化トレーニング:ハーフポールや壁を利用した安定性の再学習

ステップ4:歩行への統合(運動学習・再教育)

  • フィードバック歩行訓練:
    • 鏡を用いた視覚的フィードバックや、骨盤帯への触覚刺激(ハンズオン)による代償動作の抑制
    • 杖などの歩行補助具を適切に活用し、正しくない歩行パターンの定着を防ぐ

まとめ

THA術後のトレンデレンブルグ徴候は、単純な筋力不足だけでなく、術前の代償パターンの残存、アライメント変化、運動学習の遅れなど複数の要因が複雑に絡み合っています。

評価によって「何が一番のボトルネックになっているか」を見極め、可動域・筋力・荷重感覚・歩行再教育を段階的に組み合わせることが改善への近道です。

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