健診オールAの社員がなぜ明日倒れるのか?産業保健の「運動器エラー」と理学療法士が職域に進出すべき必然性

「うちの社員はみんな若いし、定期健康診断でもメタボ該当者は少ないから大丈夫」

もし、あなたが企業の健康管理に携わる中で、あるいは産業保健の現場でそう安心しているとしたら、それは極めて危うい**『盲点』**を見落としているかもしれません。

現代の産業保健の主流は、特定保健指導に代表される「内科的アプローチ」です。体重、血圧、血糖値、脂質。健康診断のA〜Eの判定に一喜一憂し、メタボリックシンドロームの予防に血眼になる――もちろん、これは労働者の命を守る上で極めて重要な地盤です。

しかし、現場で今まさに起きている「もう一つの危機」に、健診の数値は答えてくれません。

昨日まで健診結果が「オールA」で健康そのものだと言われていた40代・50代のベテラン社員が、オフィスを歩いている最中に、わずか数ミリの配線コードに爪先を引っかけて激しく転倒し、大腿骨を骨折して3ヶ月の長期休職に追い込まれる。あるいは、毎日の深刻な腰痛や肩こりによって集中力が著しく低下し、表に出てこない巨額の労働生産性損失(プレゼンティーズム)を引き起こしている。

これらはすべて、血液検査や心電図では1ミリも予測できない**「運動器の機能低下(ロコモティブシンドローム)」**が原因です。

現代の働く世代は、デスクワークの爆発的な増加や運動不足により、私たちが想像する以上に「動けない身体」になっています。内科的な数値は完璧でも、下肢筋力や歩幅(バランス能力)といった身体機能は、すでに高齢者一歩手前のレベルまで崩壊している「健常ロコモ層」がオフィス中に溢れているのです。

今、産業保健に必要なのは、内科的視点(メタボ予防)の片手落ちを補う、「整形外科的・運動器視点(ロコモ予防)」のパラダイムシフトです。

そして、この目に見えない「動作の崩壊」を、歩き方ひとつ、立ち座りひとつから瞬時に見抜き、科学的なエビデンスを持って介入できる唯一のプロフェッショナルこそが、リハビリテーションの専門職である**「理学療法士(PT)」**に他なりません。

本連載では、これまで病院内(1対1の臨床)に閉じこもりがちだった理学療法の知見を、企業(1対多の予防)というブルーオーシャンへスケールさせ、働く世代の身体を、延いては企業の経営を守るための「産業理学療法」の具体的な評価基準とアプローチ手法について、データと臨床の双方から徹底的に解剖していきます。

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